啐啄同時

 啐啄同時(そったくどうじ)とは禅語のひとつで、鳥の雛が卵から孵ろうとする時に、卵の内側から雛が殻をつつくこと(啐)と、それに応じて外側から親が殻を破ること(啄)が同時に起こること。大学の教職課程で初めて聞いた時、教育になんてぴったりな言葉なんだと感動したのを覚えています。教育原理の授業でした。

 子どもは、何かをしたい、知りたい、学びたい、と常に意欲や好奇心を発散させています。それを無理に引き出すでもなく、かといって放任するでもなく、ちょうど良いタイミングで教育者が手を差し伸べたりフィードバックを与えたりした結果、その均衡がとれた瞬間というのは、互いにとても気持ちの良いものだと思います。

 子どもの力が強ければ、中から勝手に殻を破って出てこられることもあるでしょう。それはそれで素晴らしいことです。また、子どもの力を信じて何もせず根気強く待つこともひとつのやり方です。ただ、未来がどうなるか誰にも分からない状況の中、「何もしない」を実際にやってみるとなかなか難しいものです。もしかしたら子どもは諦めていつまでも出てこられなくなってしまうかもしれません。外に先生がいることを知っているから頑張れるということもあります。むやみにちょっかいを出したり殻を割ってしまったりすることは望ましくありませんが、ここぞというタイミングを逃さずに外から殻を叩くことができたら、どちらにとっても喜ばしく、人間関係も深まっていくと思います。